祈り(その7)2010年06月01日 22時40分38秒

 やはりこの日も晴れていた。第一志望校には良い知らせは来なかったものの本人の望む現実的な進路に進むことが出来、遅ればせながら下宿先を決めに大阪に。好条件の物件はすでになかったものの、もはや選択肢はないのでやや学生には贅沢と思えるアパートに決め、今日は引越しの荷物の届く日。何もないがらんとした部屋の中、とりとめもない話を繰り返す。親子ともども感じていた1人暮らしの不安がこれからの学生生活の希望を押しつぶしかけていた。
 新生活のための買い物にいったん宿を後にし、道すがら目を和ませてくれる膨らみかけた桜のつぼみが彼女を一歩前に押し出してくれているような気がした。あちこちで新入生と大家さんの初顔合わせが見られる中、近所に住む夫婦に声をかけた。「あれ、どちらからおいでですか?」一言でその場を和ます私の訛り。東京から田舎に帰郷して二十年以上、言葉はすでに郷里のものに・・・「福井です。娘がこれからお宅様の隣でお世話になることになりました。よろしくお願いします。」感じのいい夫婦、明るい物腰で学生との付き合いはかなり慣れているようだ。この町にうちの子はしっかり育てていただけそうな気がした。